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薬を出すしか能がないの?

 投稿者:Legacy of Ashesの管理人  投稿日:2013年 9月22日(日)12時05分29秒
  通報 返信・引用 編集済
  http://bylines.news.yahoo.co.jp/nishidamasaki/20130921-00028302/

「薬を出すしか能がない」

どの診療科においても、薬の処方に関する基本的な原則は、

「薬の種類はなるべく少なく」

「効果のない薬剤は減らして中止に持ち込む」

というものです。多くの薬剤をカクテルや七味のように用いる「他剤併用」は、治療効果が低いとして戒められているのが、現代の精神医学の流れです。

しかし、精神科医に対しては

「薬を出すしか能がない」

「次々と新しい薬を出してくる」

「薬をなかなか減らしてくれない」

という批判があるのも事実です。わたし自身も、「こういう批判があるのも仕方がない」という認識を持っています。

理由は、二つあります。一つには、薬物療法の技量が疑われる一部の精神科医の存在です。初診からいきなり多種類の薬剤を大量に用いる、あるいはどんどん薬剤の種類が増える一方、などです。飲んでいる薬を減量・整理することから治療が始まるケースも珍しくありません。減量しただけで状態が良くなったという人も、実際には存在します。

二つ目の理由として、製薬会社によるキャンペーンに、医師が無批判に従っていることが挙げられます。「疾患喧伝」「病気の押し売り」(disease mongering)とは、病気と言うほどではない心身の不調を指して、「病気だから大変だ」と騒ぎ立て、「医者にかかったほうがいい」「治療しないと危険だ」だのと、やかましく説いてまわることをいいます。

製薬会社が医師、ひいては患者に与える影響力を知る材料として、一本の映画をご紹介します。スティーヴン・ソダーバーグ監督による「サイド・エフェクト(Side Effects)」です。
映画で見る製薬会社の影響力

2013年9月21日現在上映中であるため、ストーリーの詳細を書くことは控えます。この映画は、新型抗うつ薬・アブリクサの治験者として参加しているエミリー(ルーニー・マーラ)が主人公です。自殺未遂や睡眠時随伴症状などエミリーが苦しむ副作用が、この映画のミステリーを説く一つの伏線です。

興味深いのは、精神科医の関与です。もう一人の主役格である精神科医ジョナサン(ジュード・ロウ)はエミリーの主治医ですが、新薬アブリクサの治験にエミリーを登録することによって、多額の報酬を得ています。さらに製薬会社と深い関係を持つエミリーの元主治医ヴィクトリア(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)の存在が、事件を複雑にします。

製薬会社と医師という視点で見れば、ジョナサンは製薬会社の手先、いわゆる「御用医者」と言えるかもしれません。ジョナサンは教育費のかかる長男がいるので、製薬会社からの報酬は甘い誘惑です。
新薬がうつ病を増やす?

厚生労働省の「患者調査」によれば,「うつ病・躁うつ病」の総患者数は,1996年に43.3万にすぎなかったのが、2008年には104.1万と、2倍以上の増加を示しています。抗うつ剤の市場規模は。1998年の145億円から2006年には870億円に膨れ上がっています。

うつ病患者の増加は、DSMなど操作的診断基準の普及もありますが、選択的セロトニン再取り込阻害剤(SSRI)が日本に上市されたことも大きな影響を与えたことは否定できません。

精神科医の冨高辰一郎先生も、著書の中で、1999年以降のうつ病増加について、次のように考察しています。

    {{{ 私は単なる思いつきでSSRI が導入されるとうつ病患者が増えると指摘したわけではない。実はSSRIが市場導入されると、うつ病患者やメンタル休職者が爆発的に増加するという現象は、日本以外の先進国で繰り返されてきた社会現象なのである。他の先進国よりSSRI導入が約10年遅れた日本で、今同じ現象が起きている、と伝えたいだけなのである。  SSRIの発売は、抗うつ薬の選択肢が一つ増えるだけでは終わらない。SSRIの発売は、どの先進国においても、うつ病患者の急激な増加を引き起こすのである。 }}}

出典:「なぜうつ病の人が増えたのか」(幻冬舎ルネッサンス)

今後も、新規の向精神薬の発売は続いていくでしょう。1999年から14年経過した現代では、うつ病の薬剤性増加も頭打ちになってきているのかもしれません。ただ、別種の問題が生じてきています。それは、新薬の「データの信憑性」という問題です。

わたしのところにも、医薬情報担当者(medical representative)の方が、薬剤の情報提供としてさまざまなパンフレットを持ってきては、有効性を示した様々な論文データを紹介してくれます。

しかし、データが捏造されていた降圧薬「バルサルタン事件」で、日本の臨床研究データの信頼性は大きく失墜しました。疑惑は降圧薬だけではないと思うのは、仕方のないことでしょう。患者さんが心配するのももちろんですが医師のほうも、「このデータは信頼できるのか」と、疑念が生じるのも当然でしょう。逆に言えば、疑念もなくコマーシャル通りにバンバン薬を使ってしまったのも、「薬漬け」の要因です。

データを読み取る能力が医師にあることが求められますが、実際には「権威ある論文から」「○×教授監修」という裏付けに、頼ることになります。しかし、製薬会社のパンフレットに、長年にわたって頻回に顔出しで登場する医師は「御用医者」と疑い、客観的に自分の目でデータを見る能力が必要になります。
「薬漬け」:医療側からの弁解

「薬ばかり処方して」

という批判に医療側から言い訳をするならば、「薄利多売」の精神科医療の問題が挙げられます。

精神科の医療報酬、特に外来では「通院精神療法」が重要な報酬源です。30分以上は400点、30分未満は330点です(1点=10円)。これで言えることは、「たくさんの患者を診た方が儲かる」「ていねいにじっくり診るともうからない」という、単純な法則です。

一人にじっくりと時間をかけて、生活指導を行ったり家庭背景などを聞いていたりする時間的・経営的余裕がないわけです。開業医ならば、経費によっても異なるでしょうが、診察患者数は経営に直結してきます。勤務医ならば、一人の話をじっくり聞けば、患者さんの待ち時間が増えてしまい、疲弊するだけでなく患者さんからクレームが来るでしょう。

わたし自身も、外来患者数が半日で50人近い日には、「薬で早くオチをつけよう」という悪魔の声がしないわけでもありません。精神科医の一部の論客には、「心理療法」を重視しようという提言もありますが、5分だけでも330点と40分だの60分かかっても400点では、短時間で済ませる治療のほうが経営上は明らかに効率的です。「薬を使わない治療法」は理想的なのでしょうが、青臭い「机上の空論」という批判の声があるのも、日本の保険診療を考慮すると仕方のないことかもしれません。
「とりあえず薬」「薬は飲むな」極論からの脱却はあるのか

反医学・反薬剤・反精神医学を断定調に叫ぶ書籍が、ベストセラーになっています。「とにかく医者へ」「とりあえず薬」のアンチテーゼでしょうが、適切な医療を受けるべき人が断定本を誤って信じ込み、不幸な結果に終わる例も実際には存在します。

ただ、製薬会社をすべて悪と決めつけるのも、極論です。病気の克服に情熱を注いでいる研究者の存在も忘れてはいけません。高い企業理念に基づいて、開発から販売を進めている製薬会社もあるはずです。また、精神医療における薬剤は、多くの患者を救ってきたのも事実です。わたしも、薬剤がなければまともな診療はできないと考えています。特に統合失調症の治療に関しては、薬による治療はもっとも重要度が高いことに変わりはありません。

しかし、「抗うつ薬」「睡眠薬」の過剰処方は、無視はできない問題です。映画「サイド・エフェクト」に見られるような、副作用の問題が生じているのも事実です。

医療側でも他剤併用・濫用の反省から、「薬漬け」にならないルール作りが行われるようになりました。過剰処方の傾向がやはり強い睡眠薬に関しては、厚生労働省が先導して「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」の作成を進めています。将来は抗うつ薬についても、同じようなガイドラインを作ることが必要になるかもしれません。

極論からの脱却に対して明解な答えは準備できません。ただ「薬漬け」の責任が処方を実際に行ってきた精神科医にあるのは、事実です。自戒としては、製薬会社からのコマーシャルを鵜呑みにせず、権威ある「御用医者」の意見を疑って、薬剤に対する知識を謙虚に高めていくしかないのではないでしょうか。患者さんのほうでは、多種他剤を次々と処方していく精神科医を選別する必要があると思います。
西多 昌規

精神科医/医学博士/自治医科大学・講師

臨床現場での経験や学術上の最新知識を、タイムリーにわかりやすく伝えることができればと思っています。臨床・教育・研究が中心の「白い巨塔」にこもらず、一般向けの著書も執筆しています。【略歴】70年石川県生まれ、96年東京医科歯科大学卒業。国立精神・神経医療研究センター病院、ハーバード大学医学部研究員をへて現職。日本精神神経学会専門医、睡眠医療認定医など、資格多数。企業産業医としての活動も行っている。

ブラック企業の台頭と欝病

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nishidamasaki/20130617-00025715/


過重労働がデフォルトの日本

日本には、労働基準法という法律があります。はたらく人の賃金や労働時間、休暇など労働条件についての最低限の基準を定めた法律が、労働基準法です。

しかし、日本の大企業には、この法律を軽く見ている会社が少なくないようです。日本においては、就職人気企業の実に約6割が、過労死基準を超える労働時間というのです。

    就職人気企業225社のうち60.8%にあたる137社が、国の過労死基準を超える時間外労働を命じることができる労使協定を締結していることが、労働局に対する文書開示請求によって明らかとなった。1年間で見た場合の時間外労働時間ワースト1は、大日本印刷(1920時間)、2位が任天堂(1600時間)、3位がソニーとニコン(1500時間)だった。労使一体となって社員を死ぬまで働かせる仕組みが、大半の企業でまかりとおっていることが改めてはっきりした。人気企業の時間外労働の上限が網羅的に明らかになったのは今回がはじめて。

出典:My News Japan

「ブラック企業」という用語も、市民権を得つつあるようです。労働者の待遇を考慮せず、利潤確保を第一とする企業のことを指します。わたしの勤める医療業界も、労働基準法の枠外にあるとしか思えないブラックな業界です。当直でほとんど徹夜にもかかわらず、次の日は通常の診療をしなければなりません。わたしも、当直明けで40人近くの外来診察の途中で頭痛やめまいがしたときには、「日本の医療制度に殺される」と天を仰ぎました。

もちろん、医療業界に限った現象ではなく、官公庁やマスコミ、大企業から中小企業に至るまで、日本社会に広く浸透している悪しき勤労制度でしょう。過重労働による睡眠時間の減少、心理的重圧と緊張の絶えざる負荷は、心身の変調をもたらします。次回紹介することになる「職場結合性うつ病」の伏線でもあります。
職場のIT化、メランコリー化、そしてアスペルガー化

「三丁目の夕日」時代の職場は、現代と比べれば牧歌的なものだったでしょう。昼休みの時間、食事が終わったらバドミントンやテニス、あるいは将棋や囲碁に興じる職場も少なくなかったのではないでしょうか。あるいは、食後のタバコ一服も、昔ののんびりした休憩の定番メニューでした。

IT技術が発達した現代社会は、どう変化したでしょうか。かつては仕事がひとつ終わると、次の仕事にとりかかるまでゆっくり待つ時間がありました。外回りや出張は、会社から離れられる合法的な逃避の意味で、緊張を和らげる効果もあったと思います。

しかし、今ではコンピューターやインターネットによって、スピーディに結果や報告がなされます。一息つく暇が、まったくなくなってきています。会社から離れることはできても、携帯電話やメールによる交信から離れることはできません。タバコ一服の休憩も、職場での禁煙の励行により駆逐されつつあります。

さらに、グローバリズムによって熾烈化した企業間競争や、これに直結するサービスの不断の向上という圧力が、末端のはたらく人にまでかかってきます。顧客への良心性、いわゆる責任感の強い、他者配慮性に富むといった「メランコリー」という特徴が、企業側にむしろ強くなってきている傾向があります。過剰なまでの正確さやサービスを追求する余り、ルールが病的となり、普通の人が従うには余りに苦しいのです。

第三の要因として、社会の「アスペルガー化」も関係しているのかもしれません。アスペルガー症候群の特徴は、高い知的機能と情動知能との間にある大きなギャップです。他人の感情を配慮せず、ひたすら正確性や効率とを追求する姿は、感情と論理との間のアンバランスを連想させます。

現代の職場と関連深い物理的、心理的変化が、はたらく人の休むゆとりを減らし、心身疲労をもたらすことは、職種の違いを超えて現代の社会全般に共通していると考えます。職場に関連したメンタルの問題、「職場結合性うつ病」という概念が、注目を集めてきています。
「職場結合性うつ病」序説

普通のまじめなはたらく人が、仕事が過重となり心身が疲弊した末にうつ病を発症するケースが、近年著しく増加してきています。臨床現場でも、仕事による過重負荷を背景にして抑うつ状態となり受診する人は珍しくありません。

加藤敏・自治医科大学教授は、このようなうつ病を、職場の仕事に結合したうつ病という意味で「職場結合性うつ病」と名付けました。「職場結合性うつ病」の特徴については次回に具体例も交えて詳述しますので、本稿では導入レベルの解説にとどめておきます。

職場結合性うつ病は、「イライラする」「不安でどうしようもない」という、不安・焦燥が目立ちます。過喚気発作や強烈な不安恐慌発作など、パニック症状を起こすこともまれではありません。

旧来の「物静かな」「生気のない」うつ病とは、まったく様子が異なるのです。絶えず仕事や金銭的問題、自らの雇用など身につまされる悩みが、頭から離れません。見ていても、髪をもみくちゃにしたり、キョロキョロ周囲を見回したり、将来の不安を一方的にまくしたてたりなど、まったく落ち着きがありません。パニック症状や、発作的な自殺未遂を理由に、夜間や休日に救急受診される人もいます。

うつ病を考える上でセロトニンやノルアドレナリンなど神経伝達物質の議論も重要ですが、背景にあるはたらく人にとって過酷になっている社会情勢も、診断や治療上考慮する必要があります。
原因はあなたかもしれない 現代社会の因果応報

これまで述べてきた社会変化は、他人事ではありません。これを読んでいるあなたにも、その片鱗はあるかもしれないのです。電車が定刻から1分でも遅れてもイライラしてくるのは、過剰な「正確性」かもしれません。コンビニやファストフードで店員さんの対応が悪くてムカつくのも、対価に不相応なサービスを求めている心性でしょう。

「因果応報」ではないですが、クレームなり自分が抱いた攻撃性は、そのうち自分に向かってくるかもしれないのです。作家の谷本真由美さんは、近著「日本に殺されずに幸せに生きる方法」の中で、鋭い洞察を示しています。

    過剰なまでの「正確性」を伴ったサービスを要求するどう考えても、働く人の賃金をはるかに超えた労力をかけたものばかりです。(中略)必要ないものやサービスを提供せざるを得ない理由は、実は消費者である私たちに原因があります。企業や働く人に対して、自分が払ったお金以上の商品やサービスを要求し、要求が満たされないと文句を言いまくります。

出典:「日本に殺されずに幸せに生きる方法」(あさ出版)

クレームに病んだ人を治すのは、現場ではたらくわたしの役割です。しかし、こういった社会の宿痾を癒やすのは、大医である何かでしょう。大医の代表格は政治家でしたが、昨今ではネット議論など別のものかもしれません。

政治家や社会学者、あるいは社会にインパクトを与えられる識者の意見や提案に期待したいところですが、現段階ではわたしたちひとりひとりに注意を委ねるという凡庸な提案しかありません。対価に見合わない「過剰な正確性」を求めていないかという自戒が行き届く時代は、果たしてやってくるのでしょうか。

職場結合性うつ病チェックリスト(5つ以上当てはまれば、心配なレベルです)

    動悸や頭痛など、からだの症状が出ている
    イライラしてキレてしまったことがしばしばある
    発作的に消えたく(死にたく)なったことがある
    仕事に関係した悪夢をしばしば見る
    睡眠時間が毎日4時間以下である
    通勤に2時間以上かかる
    暴飲暴食が増えてきている
    上司にいじめられていると感じている
    ネットに会社の悪口を書きこんでいる
    遅刻・無断欠勤している

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