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アジア通貨危機

 投稿者:Legacy of Ashesの管理人  投稿日:2013年11月25日(月)00時42分19秒
  通報 返信・引用 編集済
  http://www2s.biglobe.ne.jp/nippon/jogbd_h15/jog280.html

アジア通貨危機■

     IMFの正式名は、International Monetary Fund、国際通
    貨基金。1930年代の大恐慌の原因となった経済政策の大失敗を
    繰り返さないために国際金融システムの安定を確保する事を目
    的として、1945年12月に設立された。その活動の中心は国際収
    支に関する問題を抱える加盟国に信用や融資を提供し、調整と
    改革の政策を支援することで、2002年6月時点で88カ国に対し
    約880億ドル、10兆円規模の融資をしている。[2]

     問題を抱える国に融資を行う機関がどうして貧困を作り出し
    ていると、スティグリッツは言うのか? 1997年のアジア通貨
    危機を例に見てみよう。この年の7月2日、タイのバーツが一
    晩にして約25%も急落した。それまで大量に流入していた投
    機資本が一斉に、流出し始めたのである。タイではこの年、国
    内総生産(GDP)の7.9%に相当する額が流入から流出に
    逆転した。

     投機家の手口はこうだ。まずタイの銀行に行って240億バ
    ーツ借りる。もとの相場は1ドル=24バーツだったので、こ
    れを10億ドルに換えることができる。そして1週間後にバー
    ツが1ドル=40バーツとなると、6億ドルを240億バーツ
    に換えて、銀行に返済する。4億ドルが自分の手元に残る。わ
    ずか1週間、自己資金ゼロで、4億ドルが手に入るという魔法
    である。そして大量にバーツを売り浴びせれば、タイ政府は買
    い支えられず、バーツは確実に安くなるのである。

     通貨危機は、マレーシア、韓国、フィリピン、インドネシア
    と広がった。失業率はタイで3倍、韓国で4倍、インドネシア
    では10倍に跳ね上がった。GDPは大きく落ち込み、98年に
    はタイで10.8%、韓国で6.7%、インドネシアで13.1
    %下がった。それにつれて貧困層も拡大し、韓国の都市部では
    3倍、インドネシアでは2倍となった。

     IMFの目的が、「国際金融システムの安定を確保する事」
    だとすれば、こういう通貨危機を防げなかったこと自体が、I
    MFの失敗と言えるだろう。しかしスティグリッツは、IMF
    はこの危機をさらに拡大した、と指摘する。

■3.IMFの口出し■

     まずIMFは先進各国からの援助も含めた1千億ドル(12
    兆円)以上もの救済資金を提供して、危機に瀕した国々の為替
    相場を維持させようとした。投機資金がその国の通貨を大量に
    売ってドルに換えようとしても、外貨準備が十分にあれば耐え
    られるだろうとIMFは考えていた。

     しかし、為替相場維持の効果は一時的なものであり、投機資
    本の集中攻撃にあっけなく相場は下落してしまった。また援助
    資金は、欧米の銀行の貸付け返済に回されたので、その国への
    支援というより、欧米銀行への援助となってしまったのである。

     さらにIMFは融資に対して、物価上昇率や成長率、失業率
    など、多い時は100以上もの貸付け条件を設定し、その上こ
    れは30日間で、あれは90日以内に、と厳密な達成期限を設
    定する。その中には金融危機と関係ない項目も含まれている。
    たとえばインドネシアに対しては、食料とパラフィン油(貧困
    層が調理に使う燃料)への補助金廃止を要求した。これなどは、
    経済政策というよりも社会政策であって、金融危機とは何の関
    係もない。

     たとえて言えば、銀行が金回りが苦しくなって個人商店に対
    して、「こんな経営状態で子供のおやつに金を使うのは問題だ、
    おやつをやめさせることを条件に融資してやる」というような
    ものである。とんだ内政干渉だが、融資をしてもらえなければ、
    店がつぶれるというのでは、無法な条件も呑まざるをえない。

.高みの見物■

     IMFの融資条件が本当に危機脱出のために有効ならこうい
    う口出しも許されようが、スティグリッツはその内容が誤って
    おり、危機を逆に拡大してしまった、と言う。

     IMFは、為替相場を維持するためには、外国資本の流入が
    必要であり、そのためには金利を引き上げろ、と要求した。そ
    れも25%以上にも。これは単純明快な正しい理論である。高
    金利による当該国の企業倒産を考えに入れなければ。

     通貨危機に襲われたアジア諸国では、企業は株式による自己
    資本よりも、銀行などからの借り入れに頼っていた。したがっ
    て金利の上昇は企業経営に甚大な影響を与える。金利が25%
    にもなったら、投下資本に対してそれ以上の利益を出せない企
    業はやっていけなくなる。

     当時、アメリカでは、連邦準備銀行が0.5%ほど金利を上
    げようとして、クリントン政権はそれによる景気後退と失業率
    上昇を恐れていた。もしIMFが米国に25%もの高金利を要
    求したら、クリントン大統領は、IMFが米国経済の破滅を企
    んでいる、と非難しただろう。(もっともIMFの主導権を握
    っているのはアメリカなので、そもそもこんな要求をするはず
    もないが。)

     しかし、融資を受けるためにアジア諸国はある程度、IMF
    の要求を聞き入れなければならなかった。その結果、インドネ
    シアでは全事業の約75%が経営難におちいり、タイでは銀行
    融資の50%近くが焦げついた。いくら高金利でも、貸付先が
    いつ倒産するか分からないような国に海外資本が流入するはず
    もない。

     スティグリッツはIMFに方針を変更するよう訴えた。この
    まま高金利を続ければ、どんな悲劇が起こるか分からないとも
    指摘した。返ってきた返答は、「あなたの正しさが証明された
    ら、そのとき方針を変えましょう」。IMFが高見の見物を決
    め込んでいる間に、タイやインドネシアや韓国の国民が長年汗
    水垂らして築き上げた企業や商店が、次々と倒産していった。

■5.ついに暴動発生■

     IMFはまた金融機関の体質を問題にして、自己資本比率
    (使用総資本に対する自己資本の割合)の基準を直ちに満たす
    か、それが出来ない銀行は閉鎖するよう要求した。自己資本比
    率を高めるには、新しい資本を株主から集めるか、融資を減ら
    すしかない。経済が下降している中で新しい資本を集めるのは
    難しいので、新たな融資を断ったり、貸付先企業に返済を迫っ
    た。その結果、ますます多くの企業が倒産し、銀行側も不良債
    権が増えて、体質はますます悪化した。

     インドネシアでは16ほどの銀行が閉鎖され、さらに多くの
    銀行が閉鎖されるかもしれない、という通告が出された。預金
    者たちは自分の預金を守ろうと、国営銀行に乗り換えたため、
    残っていた民間銀行もたちまち顧客を失った。

     スティグリッツの「どんな悲劇が起こるか分からない」とい
    う警告は、98年5月のインドネシアでの暴動となって現実化し
    た。数万人が暴動に加わり、多数の商店、銀行が略奪・放火さ
    れ、約30カ所で火の手が上がった。

     IMFは230億ドルを提供したが、それは為替相場を支え
    るためと、外国の投機資本を含む債権者を救済するだけであっ
    た。インドネシアの貧困層への食糧と燃料の補助金はそれより
    もはるかに少額であったが、徹底的にカットされ、その翌日に
    暴動が起きたのである。暴動は、投資対象としてのインドネシ
    アの信頼性をさらに傷つけ、いっそう外国資本を遠ざけること
    になった。

■6.IMFの言うことを聞かなかったマレーシア■

     IMFの言うがままとなって、壊滅的な打撃を受けたインド
    ネシアとは対照的に、隣国マレーシアのマハティール首相はま
    ったく独自の行動をとった。1ドル=3.8リンギットに固定
    し、外国資本の引き上げを12ヶ月間、凍結した。IMFのエ
    コノミストは、そんな規制を始めたら外国からの投資は激減し、
    株価は下落して大変なことになるだろう、マレーシアは根本的
    な問題に対処するのを先延ばししている、と非難を浴びせかけ
    た。

     一方、スティグリッツ率いる世界銀行のチームは、マレーシ
    ア政府に協力して、直接的な資本取引規制よりも、国外に流出
    する資本に税をかける出国税方式への転換を提案した。税金な
    ら段階的に規制を調整できるからである。

     この方式は順調に機能して、マレーシアは一年後、約束通り、
    出国税を撤廃した。規制によって投機資本の攻撃から通貨を守
    りつつ金利は低く抑えたので、企業の倒産も少なく、IMFの
    処方箋にしたがったタイやインドネシアなどよりも下降は浅く、
    回復は早かった。その後、経済の安定性が評価されて、外国か
    らの投資はむしろ増えたのである。

■7.ぶちこわされた日本の救済提案■

     97年秋、日本は「アジア通貨基金」の創設に1千億ドルの提
    供を申し出た。危機に見舞われたアジア諸国が必要としている
    景気刺激策に資金を提供するためであった。これが実現してい
    れば、アジア諸国はIMFの要求する緊縮策をとらなくとも、
    必要な資金を得られ、さらにそれを景気刺激策に用いることに
    よって、インドネシアが陥ったような壊滅的な打撃は避けるこ
    とが出来たであろう。スティグリッツは言う。

         日本がIMFの行動に強く不賛成の意を示していたのは
        広く知られるところだった。私は何度も日本の上級官僚と
        会談していたが、彼らはそこでIMFの政策にたいする疑
        念を表明していた。それは、私自身の疑念とほとんど同じ
        だった。[1,p167]

     しかしIMFとアメリカ財務省はあらん限りの手を使って、
    日本の提案を握りつぶした。日本の提案が通れば、それはまさ
    にIMFとアメリカのリーダーシップをゆるがす脅威になるか
    らだった。IMFは各国に市場競争を強く訴えていたが、自分
    自身が競争にさらされることは好まなかったのである。さらに
    日本のアジアでのリーダーシップに反対する中国も日本案潰し
    に加担した。

     しかし事態が悪化するに従って、IMFとアメリカ財務省も、
    東アジアの不況を無視できなくなり、日本は再度300億ドル
    の提供を申し出て、今度は承認された。だがアメリカはそれで
    も資金は景気刺激に使われるべきではない、企業と金融の再構
    築に使われるべきだと主張した。それは、実質的にアメリカを
    含む外国の債権者を救済しろ、という事だった。スティグリッ
    ツは言う。

         アジア通貨基金のぶちこわしはいまでもアジアで恨まれ
        ており、多くの役人が怒りをこめて私にその話をしたもの
        だ。危機の3年後、東アジア諸国はついに結集してアジア
        通貨基金にかわるものをつくりはじめた。今度はひそかに、
        もっと穏健なかたちで制度づくりがなされ、名称もあまり
        害のないように、創設が決まった場所であるタイ北部の都
        市の名をとって「チェンマイ・イニシアティブ」と名づけ
        られた。[1,p168]

■8.「民主主義に反する姿勢」■

     政府の規制を悪とし、すべて自由な市場に任せるべきだとい
    うIMFの「市場原理主義」はアジアだけでなく、アフリカ諸
    国や南米、旧共産主義諸国においても悲惨な結果をもたらし、
    特に貧困層の生活を悪化させた。そこでの「決定はイデオロギ
    ーと誤った経済学の奇妙な融合にもとづいて下され、ときにド
    グマが特定の人々の利益を厚くおおい隠しているように見受け
    られた」とスティグリッツは指摘する。

     IMFの幹部の多くは金融界出身であり、またそこに戻って
    いく。アジア危機の際にIMFで大きな役割を果たしていた副
    専務理事のスタンリー・フィッシャーは、退任するとすぐにシ
    ティ・バンクを傘下にもつ巨大金融会社シティ・グループの副
    会長に収まった。その取締役会長ロバート・ルービンはクリン
    トン政権の財務長官で、IMFの政策形成に中心的な役割を果
    たした人物である。スティグリッツ曰く「フィッシャーは言わ
    れたことを忠実に実行して、十分にその報酬を得たというわけ
    だろうか。」

     IMFは諸国民から集めた資金を使って、危機に陥った国に
    異論の多い政策を押しつけ、それが悲惨な結果を招いてもその
    責任を問われない。そこでの議論は密室の中で行われ、その決
    定が「特定の人々の利益」のために行われているという疑いが
    持たれている。それに対して貧しい人々は暴動を起こすよりほ
    かに、抗議する術を持たないのである。スティグリッツの言う
    ように、IMFの姿勢は「そもそも民主主義に反する」と言う
    べきであろう。
 
 
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